雨降り屋








目が覚めた私は、自分の家の中にいた。
リビングの中のテーブルの上に突っ伏して。

まだボーっとしていた。
なんだか…なにがあったのか、よく覚えていない。












「あ…ナナ……」











私は急に思い出した。



そうだ。


ナナは…ナナは無事なの?!























「ワン!ワン!ワン!!!」



ナナがほえている。





「あ…いる……」



よかった。

ナナは無事だったみたい。













「ワン!ワンワンワン!!」




ナナは期待するような目で私を見つめた。
得意の、上目使い。







「…もう…しょうがないな。散歩いこっか。」




















もしかしたら、あれは夢だったのかもしれない。

そう思えてくるような平和な道。



空を見れば…

真っ青な空が…………







「あれ…曇りだ…」


なんだか雲行きが怪しい。
早く散歩終わらせないと…













家に着く。





「ちょっとまっててね。えさ持ってくるから。」




私は家に入って、ナナのえさを戸棚から出した。

餌入れに餌をがらがらと入れているとき、
ぱらぱらと雨の音がした。




「雨だ…」









餌をもって外に出る。
ナナは餌を尻尾を振って、待っている…







はずだった。









「…え?ナナ?」








ナナが見当たらない。
いつも隠れている軒下にも、
犬小屋にも、
お気に入りの座布団の上にもいない。





雨がぽつぽつと降りしきる中、私はみつけた。





門が開け放たれ、その門の下にあったもの。




それは、主を失った、首輪。





ナナの首輪だけが、雨にぬられていた。







ナナがいなくなった。






私は、いやな予感がした。























































































































ナナかが帰ってきた。


それも、見るも無残な姿で。





ナナは雨の日に死んだ。



私は、雨降り屋で言われた、
雨の日は生き返れないという言葉が頭の中をグルグル回っていた。


























もう一度…雨降り屋へ行ってみよう…。



そうするしかないと思った。

































「いらっしゃい。来ましたね。」



おばあさんは、わかっていたように私を見つめて言う。




「また…やらせてください。」




「えぇ。わかりました。こちらへどうぞ。」








前と同じ部屋。同じイスとテーブル。
そして、同じ空気。




















「ルールは同じです。よろしいですね?」




「はい。」






「…では…何をお賭けになりますか?」

























「私の…命を。」

















「かしこまりました。」



























































































































































































































































いつもの散歩道。
私はいつもより早歩きでナナと散歩。
外は雨が降っている。







結局私は、「生」のカードを引いた。




私は自分の命が二つになったので、
もうひとつをナナにあげた。
そんなことができるっていうのが信じられないけど、
現にこうして私とナナは生きていた。






そして今私は、また雨降り屋へ向かっていた。
なぜだかわからないけど、おばあさんにお礼が言いたかった。
こんなことに巻き込んだのはおばあさんだけど、
でも、ナナを生き返らせたのはおばあさんだし…





と考えていたが、やっぱりお礼をしに行くことにした。
店に入らなければ、契約は成立しない…












だから、おばあさんを外に呼び出してお礼すればいい。

そう思って思い切って雨の日にナナを連れてやってきた。




雨降り屋に着く。


なんだか…最初来た時より、2回目来たときより、
なんとなくだけど、喫茶店ってかんじの雰囲気がする。

明るい。







「あら…いらっしゃいませ。」
後ろから声。






「…え?」





振り返ると、後ろにはあのおばあさんがいた。


といっても、
この前みたいにしわがれた声じゃないし、
服装もこぎれいで、軽くフリルの着いたエプロンもしている。








「え?…えっと…お礼をしにきたんですけど…」


「お礼…?」



「あ、はい。この前…ナナを助けてもらって…」
「ナナ?…あ、どうぞ。立ち話もなんですから。」



おばあさんは信じられないくらいの笑顔を向けて、
先に店の中へ入っていった。


まずい。店の中に入ったら…














そして私はまた信じられない光景を見た。



店の中に、若いカップル、3人の仲良し奥様方、
サラリーマン風の男がいたのだ。








とりあえず私は、店の中に入ってみた。
そこは普通の午後の喫茶店。

「何になさいますか?」


「えっと…コーヒーは…ありますか?」

「えぇ。ございますよ。」

「あ、あるんですか?!」



私は思わず立ち上がった。

店中の視線が私に集まる。






「え、えぇ。ございますよ。喫茶店ですからね。」


「そ、そうですよね…コーヒーお願いします…」



私は顔を真っ赤にして言った。
















今考えれば、あの出来事は夢だったのかもしれない。

妙にリアルな、スリルのある夢だったのかもしれない。



だけど私達はこうして生きている。




ナナも、私も。






雨降り屋は何が目的で存在しているのか、
なぜあんなことが起こったのかはわからない。






だけどこれだけはわかった。


雨降り屋は今日もどこかで存在している事。





人に、生きていなければいけないものに、
生きるチャンスを与えている事。






























雨の日に現れる雨降り屋。
雨の日だけの、不思議な体験だった。




































雨降り屋
 完



あとがき

雨降り屋、連載終了です。
この作品を書き始めて1年以上たってしまいました。
長い間ほったらかしにしていましたが、
みなさんの言葉のおかげで、
無事、完結する事ができました。
本当にありがとうございました。

またいつか、あなたを不思議世界に連れて行きたい!と、思っています。笑







2005.8.31



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