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雨は相変わらず降り続いていた。
あの天気予報士の言う通り、当分は降り続くだろう雨模様。
雲は分厚くて、晴れるどころか止みそうもない。

私はカサを握る力だけしか使えないように、ぼーっと歩いていた。
最近はなんだかこんな風に歩くことが多いなぁと思っていたときだった。
雨音に混じって、今にも消えそうな声が聞こえた。


「……猫」


捨て猫が雨の中消えそうに泣いていた。
カサもなく、ずぶぬれのまま、ただ「助けて」と叫んでいた。

しかし今思えば私はそれを聞き間違えていたのかもしれない。

「助けて」ではなく、「愛して」だったのか――



私は傘を猫にさしてあげて、
自分の髪の毛がどんどん重くなっていくのもかまわず歩き出した。
毛先から雫が滴る。

どんなに歩いても、走っても、どうせよけきれないんだから。
そう思えば、素直に雨を浴びられる。








「だーっ!ちげぇよお前……こうだよ、こう!」

雨降り屋に戻ると、何やら騒がしかった。
湿気は相変わらずの店だが、なんだか温かい。


「……そうそう。いいね。おーっ!やりゃできるじゃん、翼!」

翼は都築さんににっこり笑いかけて、それから私の方に気がついた。
走って私に近寄ってきて、「おかえり」という顔。
自然と笑みもこぼれる。

「今翼くんにトランプ教えてたところですよ」


都築さんも私に気がついて話しかけてきた。
さっきまで『翼』とか呼び捨てしてたくせに。

「すみません、ちょっと遅くなっちゃって」
「いえいえ……てかびしょぬれじゃないですか。傘は?」

「あ、途中で……落として」
「落とした?」


都築さんが眉をひん曲げる。
そうだよ。どう聞いたって今のおかしい。
雨降ってるのに傘忘れたってどんなボケだ。

「おもしろい。今日は実にいい日だ」
「え?」

へんてこな私をさしおいて、都築さんは機嫌が良かった。

「私雨の日はだいたい機嫌悪いんですけどね、今日は翼も来たし。楽しい」
「あぁ……それはどうも」

「これもあんたのおかげだ。礼をしないとな」
「お礼?なんでですか?」

「楽しい時間のお礼」
「はぁ……」


へんてこなのは都築さんも変わらないらしい。
なんだかこの人おかしい。

「私こうみえても人見知りでね。あまり友達がいない」

都築さんはまたトランプを束ねて、慣れた手つきでシャッフル。
マジシャン並みに鮮やかな手つきで、一瞬息をのんだ。

「翼は久しぶりにできた友達だ」

翼はにっこり笑った。
私の子とは思えない、愛想の良さだ。

「奥さん。こっちにいらっしゃい。楽しい時間のお礼は、楽しい時間で返します」
「……なにする気ですか」

急に『奥さん』なんて呼ばれてドキッとした。

「少なくともあんたが考えているようなことじゃない」
「……」


「さぁ。どうぞ」



 

 

 

 

 

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