13

 

 

「聞きたいことは山のようにあるでしょうが、話しを元に戻します」
「……はぁ」


「記憶を、お金に。それは、あなたたち客にとってすごくいい取引です。
なぜなら、自分の悲しい記憶を失うと変わりに、お金が手に入るんですから」
「……」

「忘れたいことを忘れさせてくれて、しかも金が入る。こんなにいい話し、ないでしょう」
「……」


都築さんはいちいち私の反応を伺いながら話す。
私は……なんて言ったらいいのかわからず、ただ彼の話しを聞くしかなかった。


「でもね、代償もある。世の中そんな上手くできてないってやつだ」

またコツコツと移動して、私達のいるテーブルに戻ってくる。
トランプを手にして、またシャッフル。


「悲しい記憶をなくした場合、その人にとって一番残酷な、現在が待っている」
「……」

「そもそも記憶をなくすというのは、その悲しい出来事がなかったことになるということだ。
その出来事が大きければ大きいほど、未来の『自分』に支障が出てくる。絶対にだ」
「それは……タイムトラベルとかそういう類いのものなんですか?」

「食いついてきたな。いや、違うよ。記憶をなくすだけ。
その記憶を、雨降り屋が買い取るだけだ」
「記憶を、買い取る……」



いつの間にか翼は寝ていた。
楽しい時間と言われて、何を想像していたのか。
多分なんとかレンジャーのことだろう。


「仮に、私がその話しを信じたとしてください」
「えぇ。どうぞ」

「その買い取った記憶を、都築さんはどうするんですか?」
「なるほど。いい質問だ」


都築さんは本当に機嫌が良さそうに笑った。

「私はね、大きくなりたいんですよ」
「大きく?」


「サイズじゃなくて、中身の方をね」
「あ、あぁ……」

「心を強く持ちたい。どんなことがあっても、揺るがないでいたい。
……そうなりたいと、人一倍思うんですよ」
「……哲学ですね」

「どうとってもらってもかまいませんよ」



私はクスッと笑って、トランプを手に取った。
都築さんはそれを見て、また少し笑う。

「そのトランプはね、私の商売道具なんだ」
「商売道具?マジシャンですか?」

「まぁ、そんなところだろうね」
「そんなところ?」

「記憶を消すことができるんだ。マジシャンにそう変わりない」
「マジシャンにそんなことできないですよ」

「確かに……まぁ、腕のいいマジシャンってことにしといてください」
「……フフ」



都築さんはまた立ち上がり、うんっといいながら背伸びした。
これで天気がよかったら爽やかな図になっていたかもしれないが、
湿気がむわっと後から付いて、どうにも腑に落ちない。

それでも、都築さんの横顔は晴れ晴れとした笑顔だった。



 

 

 

 

 

ブラウザを閉じてお戻りください。

 

 

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送