都築さんが奥の部屋へ下がってから、私と翼は二人、お店の傘を手に取った。
『ごゆっくり』とは言っていたが、遠まわしに早く帰れと言っていた都築さん。
雨はさっきよりも確実にひどくなっているが、あまり長居するのもよくない。

店のドアを開ける。
予想以上に雨が激しくて、雨音がうるさかった。
店の中が湿気でじめじめしていたせいか、外のほうが息苦しくない。



一歩ずつ、歩き始める私と翼。
翼は、さっきまで私の顔を見ていたが、なぜかびちゃびちゃと水溜りで遊び始める。
大きすぎる黒い傘を持って遊んでいるその姿は、なんだかかわいくて、ちょっとだけ心が和んだ。
少しだけ笑っていると、翼はそのことに気づいたように、さらに水溜りを蹴って遊んだ。
私はしばらく、立ち止まったまま翼を見ていた。


すると、翼はコンクリートの間に咲いたタンポポを見つけて持ってきてくれた。
にこにこ笑いながら、元気付けるように、渡してくれた。

「……ありがとう」

静かに言うと、翼は、もっと何かないかと、きょろきょろとあたりを見回す。
雨のせいで視界が悪く、花もそう見つからない。

翼は大降りの中、無邪気に花を探していた。
私もゆっくりと、翼の後についていく。


少し大きめの通りに出た。
こんな天気だからか、車もめったに走らない。
翼は誰もいない道を、元気に走り回っては、私を見て、花を探した。
道を渡って、ガードレールの下を念入りにチェックしている。


しばらくして、翼は満面の笑みで振り向いた。
大通りをはさんで、翼は大きく手を振って、私のほうへ走ってくる。
右手には、まだ咲いたばかりの、小さなタンポポが握られている。

私も、表情が自然と和らいだ――




無我夢中で走っていた翼。
私に元気になってほしくて。笑ってほしくて。
五歳児の精一杯の笑顔だった。

その笑顔に、私も精一杯の愛情で、答えてあげようとしていた。


会社をクビになった瞬間も、こんな風にはならなかった。
今まで経験したことのない、胃がザワッとするような感覚が私を襲った。


翼のすぐ横の通りから、猛スピードで走ってきたバイク。
運転手は、小さな翼に気づかない。




「――翼っ!!」



 

 

 

 

 

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