トランペットを吹く少年の物語
野球部の奴らがこっちをちらちら見てくる。
今、私はピッチングをしているから。
深呼吸を一つ。
緊張の一瞬。
キャッチャーのグローブだけを見て・・・
投げる。
「ッパァァン!!」
・・・。
これよ。
これなのよ。
キャッチャーが私の魂をとった時のこの音。
野球部の奴らは目を丸くし、私のフォームを真似する。
この瞬間のために、私はソフトを続けているんだ。
「今日調子いいじゃん理緒!」
私のピッチングを見ていたらしい夏希が話しかけてきた。
「まぁ、ラストスパートって奴ですかねぇ。」
「おぉっ?否定しないねぇ〜いつもは『そんなことない』なんて謙虚ぶっちゃうのに〜」
「もう謙虚はやめたの。強気でいかなきゃピッチャーなんてやってらんないっての。」
「ま、その方が理緒らしいっちゃらしいけどねー・・・」
「もうホントに!私指腫れちゃいましたよ〜」
この子は二年生の春菜。
私とバッテリ−をくんでる。
中学からの経験者で、これが結構上手い。
「大会までもつかなぁ〜・・私の指・・・」
「大丈夫よー。あんたの指もともと太いから。かわんないかわんない。」
「なにそれー!先輩ヒドすぎ!!」
とまぁこんなかんじで可愛い後輩であります。
今日も暑い中、午前中で練習終了。
汗びっしょりな私達はさっさと片付けをすませ、
鉄製なためかなり熱くなっているトンボを手に、グラウンドをぐるぐるまわった。
「ふー・・・どっこらしょ。」
最近我がソフト部はおばちゃん率が高い。
「はぁ〜疲れた。先生絶対私にショーバンとらせようとしてるよ〜・・・バレバレのバテバテ。」
「な〜んかねらってるんだよね最近・・・」
わいわい、がやがや。
部室の中。
私の縄張り・・というか陣地は部屋の一番右端。
やっぱ端っこって落ち着く。
「あ!理緒!ジュース買いにいこーよ。」
夏希の提案。
「えぇ〜・・・?めんどい。」
こんな理由で断る。
「・・・わかった!一口あげるから!」
「・・・一口ぃ?」
「・・・二口!!」
「・・・。」
「わかったよ三分の一あげるから!」
「いく。」
即答。
てゆーか三分の一どうやって測るわけ?
夏希は90円の炭酸飲料を片手に戻ってきた。
自販機から部室への道を二人で歩く。
「実はね・・・私が三分の一もジュースあげてまでついて来てほしかったのは訳があるのよ〜ん!!」
「・・なに?」
私は夏希のジュースを飲みながら言った。
「えへへ・・・トランペット速報〜!!チャララーン!!」
夏希はニュース番組のアタック音のような声を発した。
「昨夜未明、華原夏希さん宅にて、松永理緒さんの想い人、謎のトランペット奏者についての情報メールが届きました!・・チャラン!」
夏希は『チャラン』と同時に携帯をさっと私の目の前に差し出した。
え・・まじで?
・・・これ?
「読んで・・・いいの?」
「あったり前じゃん!」
『トランペットでUょ〜???今ゎ女子Uかぃなぃんだけどさぁ、昔ゎ超かっこぃぃ先輩ぃたらUいのょ〜/(*≧∀≦*)
ゥチラの2コ上の先輩の、そのまた2コ上だから〜4コ上???
でさぁ、その人めちゃ上手くてさ、今でも演奏会のテープぁるんだけどね(ヮラ)
ソロがまU゛すごぃの〜!!!!指まゎんねぇってぁれ・・・』
とまぁこんなような内容だった。
所々ギャル文字入ってた。
・・・でもこれって・・・
「この人が私の調べてほしいっていった人とは限らないじゃん。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・それいっちゃーおしまいっしょ。」
「おしまいだよ。」
「・・・。」
「んもー!なによ!人がせっかく調べてやったってのにさ!!」
「なんで怒んのよ。」
「知らないわよもー!てゆーかジュース返して!ぎゃー!三分の一って言ったじゃん!なに二分の一も飲んでんのよー!!!」
プリプリしながら走り去る夏希。
まぁ、怒らしときゃいっか。
こんな事なら別に部室で見せてくれたって良かったのに。
でも・・・これがもし本当にあの少年だったとしたら?
そのテープがまだあるって・・・
もし本当だとしたら?
てゆーか待って!!
これが全てあの少年の事だったんだとしたら・・・
あの少年はこの高校の卒業生ってこと?
4コ上・・今、22歳とかそこら辺?
・・・。
でも・・・22には見えなかったけど・・・
なんたって、「少年」だもんね・・・。
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第四話。
長くなって参りました〜;
もうちょっと続きます。
ナチュ。
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