トランペットを吹く少年の物語






午後三時。

さすがに朝の九時半からずっと練習しているとなるとばててくる。

試合間近だというのはわかるけど・・・

それにしたってやりすぎだろ。

妙に蒸し暑いし。













腹ペコのまま部室に戻る。

夏希たちと軽くしゃべってから、私は昼ごはんを買いに行った。





その途中、あの四階の校舎の前を通る。

毎日通る道。



だから・・・あの少年にも会えたんだな・・・



無意識にその道を通るときは空を見上げるようになっていた。

もしかしたらまた会えるかもしれない・・・

会えるというより見るってかんじの一方的なものだけど・・・

いつも自然とそんな気持ちになるのだ。









だけど今日はいないみたい。

もう三時だし・・・ティータイムかしら?































コンビニで鳥そぼろ弁当を買い、学校に戻る。



部室でみんなと食べようか、

それとも外で一人で食べようか。



部室は人口密度が高くて息苦しい。

かといって外で一人で食べるのも夏希に『愛がたりない』なんて攻められそうだし・・・



やっぱりみんなと食べるべきかな・・・



一人でそんなことを考えていた。







































するとまた、あの曲が聞こえてきた。









「♪・・・♪♪・・・♪」







「あ・・・」







また、聞き入ってしまった。

目を閉じて・・・。







目を閉じてはいたが、瞼の裏には、何かが映っていた。

それはこの曲を聴いたときいつも思い描くなにかだった。





なんだろう。



もやがかかってよく見えない。

私は顔をしかめた。



その先を見てみたい。



もやが壁のようになって・・・

どんどん深くなって・・・









見えなくなってきた・・・





























目を開ける。











私は決心したように走り出した。

鳥そぼろ弁当を片手に。













何かおかしかった。

違う。

いつもと違う音だった。

しかし、確かに彼の音色・・・。



































「はぁ・・・はぁ・・・っ・・・いた・・・。」













いた。



四階の校舎。

空に向かって音を奏でる少年。

姿かたちはいつもとかわらない。





けど、何かが違った。









また走り出す。

今度は校舎へ向かって。

靴を脱ぎ捨てて、いつの間にか弁当は手になくて・・・



それくらいがむしゃらだった。



階段を駆け上がる。







--------なんたって四階なのよ・・・





足がパンパンになるほど走った。

ようやく四階に到着。







そして廊下を走る。

まだ曲は続いている。





あそこの角を曲がったら・・・

少年のいる廊下。

まだ続く曲。

今日こそ、会える気がする。









今日こそ・・・!









私が角を曲がった瞬間。

曲がぴたりと止まった。





それと同時に、きらきら光るトランペットとケースが、

廊下にぽつんと置いてあるのが目に入った。







































少年の姿はなかった。

















「はぁ・・・はぁ・・・」











なんでよ



いつも逃がしちゃう・・・





なんでなのさ。













「なんでなのよーーーーーー!!」

















私は声に出して言った。

廊下に響く自分の声。



答えがあるはずはなかった。





「・・・いつもの・・・いつものが聞きたい・・・」









息切れしながらトランペットに近づいた。

近くで見ると、いっそうきらきら輝いて見えた。









「違うじゃん・・・いつもはもっと・・・きらきらして・・・」













そう。

いつもは一つ一つの音がきらきら光ってた。

でも・・・









「今日のは・・・なんか迷ってて・・・もやがかかって・・・」











『はぁ』と大きくため息をついてから座り込む。

トランペットをそっとなでる。













「いつになったら会えるんだろ・・・」













自分の顔が映ったトランペットを見ながらつぶやいた。

















































それから、何分たったのか、何時間たったのかわからない。

ただ、トランペットのそばにいた。

そうしていれば、いつか少年が現れるんじゃないか・・・



そう信じて。











会いたい。



会ってみたい-------------・・・











もう外は夕やけがかって、空は赤くなり始めていた。

それとともにトランペットも赤っぽく光りだす。





きら・・・きら・・・と。





とても綺麗・・・・・・



































そして、私は見た。



その光るトランペットに、透き通った、夕焼けの光を享けた・・・









赤い水滴が落ちるのを・・・・・・





































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第五話。
そろそろです。

ナチュ。




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