トランペットを吹く少年の物語






第7話





昨日のてるてる坊主が効いた。

朝、目が覚めると、私は布団の中で再び目を閉じた。

そっと目を閉じて、耳を澄ます。



雨の音は・・・





「しない・・。」









布団の中で小さくガッツポーズ。

でも、心の中では私の体で表現できる最大限のガッツポーズをしていた。



私は飛び起きて、枕元においてあったユニフォームを見つめる。

昨日、ちゃんと準備しておいたんだ。



今日は、頼むわよ。



ユニフォームは戦士の鏡。

これを着ると、私は誰にも負けない、負けられないという気持ちになれる。

高一のときと比べると、やっぱりちょっと背が伸びたみたいで、

ユニフォームはちょっときついくらいになっていた。

でもこれくらいがちょうどいい。

ちょっときついくらいが、体を引き締められて、心も引き締められる。

気合いが入る。











そして、30分ほど早めに起きたのに気がついた。

私は本棚に手をかけて、大きなアルバムを取り出した。

なんとなく。



ただ、なんとなく。





高一。

三年の先輩たちに囲まれて、やや緊張気味の私。

あの夏希でさえ、緊張してる顔。

もう私達が頼れる先輩たちはみんな大学生だったり、社会人。

だから一個上の先輩たちが引退したときは、本当にどうなるかと思った。

今まで私達はただなんとなく続けてきたソフト。

今度は私達がリードして、盛り上げて、戦わなきゃ行けない。

そんな苦労も知らない高一の私。

笑えてくる。

それにしてもヒドいな。写真写り。



高ニ。

あぁ。まぁまぁマシになってるじゃん。

写真写りも、表情も。

これはちょうど新人戦のときの写真。

2個上の先輩たちが抜けて、初めての公式戦。

結果は一回戦敗退の完全惨敗。

それでも、先輩も私達も・・・春菜たちも笑顔。

そうだ。高二は春菜たちが入ってきた年だったんだ。

中学のときも経験してきたけど、後輩から先輩になるのって、

すごく恥ずかしいんだ。

照れくさいっていうか。

初めて「理緒先輩」って呼ばれたときは、

自分の事ってわからなかったっけ。



そして、高三。

つい最近の写真。

これは部室だ。

「大会前に、一発とっちゃいましょ!」っつって、春菜がカメラ持ってきたんだ。

つい一週間前にもらった写真。

・・・みんな真っ黒に日焼けして、歯がいっそう白く見える。

春菜ってば、顔全体がまんべんなく焼けないで、

ほっぺたと、鼻の頭、おでこの辺りが真っ赤になっている。

目の周りは白っぽくなって、パンダみたい。

それだけ、頑張ったってことだよね。



夏希はというと、やっぱりこいつは美白を貫き通すらしい。

日焼け止めガンガン塗って、いつも日焼け止めの匂いまき散らしてたっけ。

日焼け止めは一ヶ月に一本のペースで使い切っていた私達。

それでも最近の日差しは強くて、汗で日焼け止めは落ちてしまう。

休憩時間には決まって、みんなで日焼け止め塗りながら過ごした。



笑いあって、一緒に汗流して。

時にはキツく注意したり、ケンカしたり。

涙もあった。



でも、今想い出せばいい思い出ばっかりだった気がする。

顧問がどうしようもなくむかつくときもあったけど、

それでも、お世話になった。



そう。

私のこの三年間に、無駄なんてひとっつもない。

全部、全てが自分の中で、何かの意味を持って存在し続けると思う。

試合でボロ負けした事も、

初めて三振とった時のあの興奮も。

県大に行った事も。

合宿で夜じゅうしゃべったことも。

みんなでお弁当食べた事も。

先生に起こられた事も。

褒められた事も。

春菜がホームラン打った事も。

夏希がゲッツーとった事も。

私が悔しくて泣いた事も。

みんなが慰めてくれた事も。

また、歩き出そうって思えた事も。



そして、



太陽がまぶしすぎて、文句言おうとした事も。

顔を上げたら、素敵な奇跡がふってきた事も。

トランペットの音色が、心に染みわたった事も。

トランペットの音色に、涙した事も。



そしてなにより、



彼に出会えた事も。





全てが存在している。



私の心の中に





いつまでも

































準備はできた。



まってろよ。ソフトの神様!

私は絶対、あの大舞台に立ってみせるよ!

悔いなんて残させない。



そうだ。

悔いを残さないために、

自分に負けないために、



私の三年間はあった。







後悔しない。

胸はって。私にかなう者はいない。って。





そう。



私は世界一。宇宙一。

世界は、地球は。





私中心にまわってるんだから。







まっててよ。

夏希、春菜。みんな。





私、絶対勝つから!!!































ドアを開けると、からっと晴れた空が私をつつんだ。

雲一つない晴天。





私の最後の晴れ舞台にはもってこいのシチュエーション。



ありがとう。



おまじないが効いたみたいだよ。

昨日のてるてる坊主。









私は、あんたのためにも頑張るからね。

試合終わったら、結果伝えにいくよ。

その時の私は、誰にも負けないくらいの笑顔だと願うよ。

ただ、「勝ったよ!」「ありがとう!」って。

そう伝えたい。





そのための、「言葉」だから。







じゃぁ、行ってくるよ。



もう私は大丈夫。何でもできる。

胸はって、堂々と戦場に向かうから。

あんたも、願っててよね。







たのむよ。







トランペットを吹く少年!!!



























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第七話。
決意を胸に、戦場へ。

ナチュ。





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