空模様






第10話





そんなとりとめのない話を永遠としていた。

不思議なもので、時間が過ぎるのがものすごく早かった。

それはもう光陰矢の如し。



あっというまに時計は夜中の三時をさしていた。





「……もう三時ですね……」



ほぼノンストップでしゃべり続けていた菜蘭はやっと訪れた静寂を遮った。

部屋の壁に立てかけてあるアルミ製の時計を見ながら。

そのとき。どこからかおかしな音が聞こえた。



「ギュゥゥゥ……」



俺の腹の音だ。

普段7時以降は食事をとらなかったのに…

起きてこんなに話をしていたから腹が減ったのだ。





「……お腹……すきました?……よね?」

「……いや………」



俺は自分の腹の虫をコントロールできない事に悔やんだ。

なんたってこんなタイミングで……



「私何か作りますよ。お台所貸してください」

「いやっ……いいって」



「そんな。レストランでも全然食べてなかったじゃないですか」

「俺そんな夜は食べないようにしてるから……」



「でもお腹鳴るまで我慢する事ないですよ」



柄にもなく強気な態度。

まるで母親のような口ぶりだった。



「……」

「お台所、おかりしますね」



そういうと菜蘭は台所にトタトタと小走りで行ってしまった。

ちょっ……やべっ……

そっちは……!





「おい!ちょっ……ちょっとまて!」

「はい?」



『はい?』と答えながら菜蘭は食器棚を開けた。

あぁ……

もう遅い……



「きゃ--------っ」





叫び声とともに食器棚から出てきた物体。

菜蘭にしてみれば得体の知れない黒い物が中から出てきた。

未確認物体は、するりと菜蘭の足下に着地した。







「ね……猫?!」



黒猫だった。



「なんで……猫が……?!」

「……あぁ……悪いな」



「猫?!」





パニック状態の菜蘭。

床にぺたんと座り込んで、動けないでいる。



「あぁ……客が来る時はそいつ、そん中にしまってんだ……」

「……はいっ?!」



信じられないと言った風に顔を上げる菜蘭。

その目には驚きと、少しの軽蔑、それよりもっと少量の恐怖が伺えた。





「そいつ、なんか知らねーけどそこがお気に入りなんだよ」

「お気に入り……?」

「客の中には動物嫌いだったり……アレルギーだったりする人もいるからさ……」



「……あぁ……なるほど……」

「まぁ、アレルギーの奴はこの部屋入ったとたんにくしゃみ止まんないけど……」



「……あぁ……そうですか……」



次第に我を取り戻した菜蘭はどっこらしょと起き上がる。

いや……どっこらしょじゃない。よいしょ……くらいの可愛いもんだ。



「それで……この中にに……」

「あぁ……」



そういうと、菜蘭は猫の方に体を向け、

おいで、といいながら手を差し出した。

黒猫は小さく鳴きながら菜蘭の様子をうかがっている。



「……名前はなんていうんですか?」

「……ないけど」



「ないんですか?!」





信じられない、と叫びながら俺の目をじっと見た。

ちょっとタジタジとなる自分にまた後から腹が立った。



「……名前付けて呼ぶなんてキモくね?」

「名前は付けてあげないと。だめですよ、絶対」



「……別に」

「よく言うじゃないですか。名前は親が子供にあげる最初の愛情って」



「……別に俺そいつの親じゃねーし……」



菜蘭は深いため息をついて、調子づいてこういった。



「じゃぁ私が決めます。この子の名前」

「……」



菜蘭は黒猫を抱きかかえた。

指を猫の顎の下に当てると、黒猫は低くうなった。

気持ち良さそうに、だ。













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第10話。
黒猫は幸せの宅急便

初花





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