空模様






第3話





俺は彼女と二人で歩いた。

一言もしゃべらなかった。





家が見えてきた。

俺の家は4階建ての三角形の建物。

ちょうどショートケーキみたいな形をしている。

ショートケーキの一番とがっているところが、俺の住んでいる場所。

一番最初に食べるところだ。





三角形だから、部屋の形も三角形。

一番とがっているところにはベットが付いていて、そのベットは扇形。



すっぽりハマる。

俺の自慢のベットだ。

中心角の方に足を向け、弧の方に頭を向ける。

一番安心するポジション。











エレベーターの中でも、会話はなかった。

俺はドアの一番近いところに立ち、ドアの方だけを見ていた。

少女は奥の方に立っている。真っ直ぐ前を見ている。



ドアのガラス越しに、彼女の顔を見た。

整った顔立ちで、俺の好みではないものの、そそられる何かはあった。



博物館に飾ってあるガラスの靴のような、

正月の朝目覚めたら雪が降り積もっていた、そのまっさらな、土の混じっていない雪のような…



そう、それはまっさらに感じた。











4階につく。



彼女の顔を直接見ないまま、エレベーターを下りて、歩き続ける。

どんどん奥へ歩く。自分のペースで。

ついてきているのかはわからないが、とにかく早歩きで。

小走りしている音が聞こえる。







一番奥の部屋で立ち止まる。

ドアは小さく、非常ドアのような形。



鍵を開け、ドアノブに手をかけ、一歩後退。

ジェントルマンを頭に浮かべ、一言。



「どうぞ。」

少女は少し頬をピンクにして、お辞儀をしながら部屋に入っていった。

その後から俺も入る。



少女は靴を脱ごうとしていた。

「あ、靴は脱がなくていいよ。」

「へ?」



「ウチはアメリカ方式だ。ベットの上以外は靴でいいよ。」

「でも…」



「いいから、入った入った。」





少女を押す。

優柔不断な奴は大嫌いだ。



思ったより力が強かったのか、少女は4、5歩前につんのめった。

そのまま出ていた釘に足を引っかけ、大きな音を立ててすっ転んだ。





ドテーーーン。





漫画並みの効果音。







「い、痛い。」



「……プッ…」



思わず吹き出した。

あまりに棒読みな感動詞。

真っ黒なブーツがおかしかった。



ん…?

真っ黒なブーツ?







「お、お前!靴!!」

「あ、あの…はい。すっごく汚れています。」



「汚れていますじゃねぇだろ!汚ねぇ!!」

「す、すみません!あの…あ…」





あわてて飛び起きる少女。

また汚れる床。





「おい!動くなよ!」

「あっ!すみません!!えっと…何か拭くもの…!」

「あーあーあー!!そっち行くな!!」







少女はなにを思ったか、洗面所に向かった。

もちろん、洗面所も泥だらけ。





「動くなおまえは!」

「すみませんっ!でも…あの…拭かなきゃ…」



「俺がやるから!外出てろ!」

「え?あ、はい。でも…はい。」





少女はなにを思ったか、俺の横を通って急いで外に出た。

もちろん、俺の横の床も泥だらけ。



面積が増えた。

少女を睨みつける。



「……」



この女…

わざとだろ…。



「……あの…なにか?」

「……いや。そこで待ってて。」



洗面所でぞうきんを絞り、洗面所から床を拭いて行く。

こんなに手間のかかる客は初めてだ。

客が来るために掃除をする事はしょっちゅうだが、

客が来たために掃除をした事はなかった。

ぶつぶつと一人でいろいろな事を考えていると、少女の声がした。





「…あ、あの!手伝いましょうか?」

「…いいよ。」



「でも…私が汚しちゃったわけだし…」

「…いいって。」



「私…そんなつもりじゃなかったんですけど…ご迷惑を…」

「………。」





イライラしてきた。





「じゃぁ、その靴脱いで。こっち来て。」

「あ!…はい!」





靴を脱いで、満面の笑みでこっちに向かってくる。

床が汚れているのを忘れてか、ドカドカと入り込んできた。

ビチャビチャと跳ねる泥。



また、面積が増えた。





「…わざとだろ?」

「え?なにがですか?」



「…もういいや…そっちにぞうきんあるから。持ってきて。」

「はいっ…」



わたわたと洗面所へ向かう少女。

髪の毛が一歩遅れてなびく。



「あの…すいません本当に…」



彼女は俺の横にふわっと座って床を拭き始めた。

その距離、わずか5センチ。

いやでも彼女の髪の匂いがした。



















----------------------------------------------------------

第3話。
二人の距離は5センチ。

ナチュ。





SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送