空模様






第4話





「あんた…名前は?」

「え?」





床を一生懸命に拭いていた彼女は、俺の突然の質問に顔を上げる。

不健康な真っ白な肌がすぐ目の前にある。





「普通俺は客の名前は聞かないんだけどさ……」

「……そうなんですか」



「客と一緒に掃除をしたのは初めてだからな……記念に」

「……すみません」





「……名前は?」









彼女は一呼吸おいてから口を開いた。









「菜蘭です」





「ナラ?」





「はい」



「奈良県?」





「いいえ。菜の花の菜に、花の蘭で…菜蘭って書きます」

「へぇ……」



「はい……」





菜蘭は何かモジモジして、俺の様子をうかがっている。

これは、『貴方の名前は?』と聞きたいに違いない。



しかし…





「俺はソウタ。空に太いで空太」

「空が…太いんですか?」





何かを思い浮かべるように目だけ上の方を向いて聞き返す。



「うん」

「面白い名前ですね」



「…人の事言えないだろ」

「あぁ……すいません」



「いいから。黙ってここ拭け」

「は、はいっ」









やはりこいつ素人らしい。

裏の世界で生きるなら偽名を使うくらいの知恵を身につけておくべきだ。



もちろん、「ソウタ」は偽名だ。

俺がそんなふぬけた名前な訳がない。







裏世界の住人でない少女。

その容姿からして、今までの客とは世界が違った。



なにを食べたらそんな丸く白い肌になれるのか。

なにをどうしたらそんなにまっすぐな細い髪になるのか。



今までとは違っていた。





ただ一つ。

今までの客と共通点があるとすればそれは…



「ワケアリ」だ。

ワケアリ少女。





















「はぁ。終わった」

「奇麗になりましたね」



いや…お前が汚したんだろ。



「……そうね」

「な、なんですか?」





俺の乾いた笑い方に、少し顔を赤らめる菜蘭。

天然ボケというやつだろうか。





「別に」

「………」





「腹減ったな。なんか食いに行くか?」

「え…でも私あんまりお金持ってなくて」



菜蘭はしゅんとしおれてモゴモゴと言った。





「…え…じゃぁ5万は?!」

「あ、5万はあります。後は銀行に……」



「あぁ…そう」

「はい」





ひと呼吸置いてから…俺は口を開く。





「でもウチのサービス『食事付き』だし…」

「そうなんですか?!」



「あぁ」

「よかった」





しおれていた花がよみがえったように笑った。





「そう?」

「はい」





無邪気な笑顔を見せた彼女。

その笑顔も、別世界に咲いている花のようだった。







「じゃぁ…行くか」

「はい。よろしくお願いします」





また、『よろしく』。

力が抜ける。























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第4話。
お客様の名前を問うのはタブー。

ナチュ。





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