空模様






第5話





いつも客にサービスとして提供している食事。

全て俺が出すわけだが…それはもちろん宿泊代5万に含まれている。

なんとかして5万以内に食事代を済ませ、残りを頂く。



客が裏の顔になればなるほど、その『残り』は少なくなる。

そして行き先はフランス料理、イタリア料理、中華、寿司屋。

裏のトップなら、の話だ。



と、いうことは、だ。

今夜の客はここで充分だ。







「ここ。俺が行きつけの店」

「……はぁ」



「俗にいう、ファミレスね」

「ファミ…?」





菜蘭はなぜか『わからない』というような仕草を見せる。





「……」



「ファミレスですか?」

「あぁ。ファミレス」



「へぇ……」

「ファミリーレストラン」



「はぁ……」

「知らない?」



「えぇ。まぁ」





へぇ、はぁ、えぇ、まぁ。

不抜けた返事をする菜蘭。

ファミレスを知らないなんてどういう人生を送ってきたんだ?

これがワケアリってやつか?





「とりあえずドリンクバー二つ」

「はい。かしこまりました」





高校生くらいのウェイトレスが微妙に無愛想な態度で接客。

このファミレスは教育があまりなっていない。



まぁ、それくらいがちょうどいい。









「あの…ドリンクバーですか?」

「あぁ…行ってこいよ。俺待ってるから」



「…行くってどこにですか?」

「…ドリンクバーだよ」



「…またどこか違うところに行くんですか?」





純粋な目でそんな不抜けた事を聞いてくる。

冗談ではなさそうだが…





「………」

「………」





顔を見合わせる俺と菜蘭。

一瞬時が止まったように感じた。

それを破ったのは意外と俺の方だった。





「わかったよ。一緒に行く」

「あ、すいません」





立ち上がった菜蘭と俺。

コートを席に残して、ドリンクバーへと向かう。





「意外と近かったですね」

「いや…店内だしな」



ほんとに俺はいくつのガキ相手に話してんだ。

いちいち疲れる。





「はい。グラス」

「あ、すいません」



「氷は?」

「お願いします」





二人分の氷をつぐ。



「あの…どこにドリンクが?」

「そこの機械から出てくる…けど」



「あ、なるほど。このボタンですね」

「あぁ……」



菜蘭はボタンをポチッと押した。

「……」

「……」





オレンジジュースが少ししか出ない。

当たり前だ。

少しの間しか押していないから。

菜蘭は何度もボタンを押した。



カチカチカチカチカチ…







「あの…空太さん。このドリンクバー、出が悪いみたいです」

「当たり前だろ」

「え?」

「押し続けるんだよ」





俺はコーラのボタンを押した。

二、三妙。





「…なるほど」

「な?」



俺はストローをさし、一口飲んだ。



「……え?それだけでいいんですか?」

「…お前ホントにファミレスも素人だな。ドリンクバーは少しずつつぐのが基本だ」



「…なんでですか?」





少しの事で食いついてくる。

俺は少し気分が良くなった。



「少しずつ、いろんな飲み物を飲めるようにするんだよ。
それにこういう安っぽいファミレスだとまずいヤツがあるんだよ、時々。
カルピスがよく混ざってなかったり、オレンジジュースが薄かったり……」

「……はぁ」



「だから、試しもかねて、少しずつ。いちいち立ち歩くのもめんどいけどな」

「いい事を聞きました」



目を輝かせる菜蘭。





「…そう?」

「はい。参考にします」





菜蘭と俺はグラスに三分の一ほどのコーラを片手に、席に戻った。













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第5話。
自分のことを天然というやつは天然じゃない

ナチュ。





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