第12話






あの日から半年が経った。
今、私達は以前と変わらない生活を送っている。

そう。


私達がもう夫婦ではないことをのぞいては。






「夏乃。あの星は?」
「あれは……なんだっけ…さそり座かなんかの一部じゃない?」
「ちがうよ。さそり座は夏の星座でしょ。」
「あぁ〜…良く憶えてたね。」
「それくらいは知ってるよ。」
「はは……もう冬だもんな。息が白い。」




私もはぁっと息を吐く。
小さい頃、『ゴジラだー』なんていってごーごー吐きまくってたっけ。





それからというもの、
私達はこうして一緒にいられる時間が長くなった。

結果的に私は、夏乃を社長の座からずりおろした女となってしまったけど、
それでよかったと思った。
夏乃もお父さまとの約束を守れなかった事だけが心残りだとか言ってたけど…
あんな堅苦しいところにいるよりは今の方がよっぽど楽だと、
笑いながら言った。

結局は私は夏乃に迷惑をかけたわけだ…
でも、それが私達の普通の事であって、それでバランスがとれていたんだから。
もう余計な事は考えない事にした。





夏乃はどっかの部署の部長という地位になったが、
それでも毎月お給料は入るし、
社長のときほどではないけど、生活は安定していた。

そして、夏乃が社長だったときよりは確実に、
私の心も安定していた。






「喜夜〜…最近はどうなの?」
「え?どうって?」

「気になる人とかいないの?」
「え〜?いないよ〜…だって出会いとかないし。」

「あ、そう?」


「夏乃は?」
「ん〜…いないね。モテないし。」

「えぇ?モテないわけないじゃん。あの秘書の子は?」
「う〜ん…色々誘ってくるけどさぁ…なんか怖いし。苦手。」

「あはは。私もあの秘書苦手〜」





私達はもう夫婦という関係ではないけれど、
一緒に暮らしていた。
私が提案した。


『お互いに結婚したいと思った人ができたら本当に別れる』


夏乃は『いいよ』とそれだけ言ってくれた。
ただ、君がそうしたいならそれでいいんだ、と。



私は気が楽になった。
夏乃と別れてから、なぜだか楽になった。
ずっと夏乃といられないということにストレスを感じていた。

でも、そのストレスは消えて、楽になれた。
夏乃と本当にお別れしたかったんじゃない。
それはあり得ない。



それでも、『夫婦じゃない』と思えれば、
ずっと一緒にいられないのは当たり前のように思えた。



不思議だった。







「ね。外行こうか。」
「外?」

「うん。公園。」
「でも…寒いよ?」

「いいじゃん。コート着てけばいいでしょ。」
「…わかった。いこうか。」

「うん。」













公園に着いた。
夏乃は2つの缶コーヒーを持って歩いてきた。






「…はい。コーヒーでよかった?」
「うん。ありがとう。」




夏乃は二つとも私に渡した。




「え?夏乃のは?」

「いいよ。二つとも喜夜の。こっちは手を暖める用、こっちは飲む用。」


夏乃はにっこり笑った。



「……そんな…いいのに。」
「そういうときは、素直に受け取りなさい。」
「…は〜い。」




一つだけ開けて、一口飲む。
夏乃の優しさも詰まったコーヒーに、心も体も温まる。




「ふう。おいしい。」
「でも缶コーヒーだよ?僕のいれたコーヒーの方がおいしいだろ?」

「そりゃそうでしょ。」
「そりゃそうさ。」


「はい。夏乃。もう充分暖まったし、こっちあげるよ。」
「え?いいの?」

「うん。もうぽかぽか。」
「そう?じゃぁもらっとく。」

「うん。」





夏乃は少し間をおいてから、



「寒くない?」



わたしはその言葉にまた顔がほころんだ。



「大丈夫だよ。その分は夏乃に暖めてもらうし。」





夏乃の肩におでこをぶつける。
外は冬だというのに、私達の周りだけ春風が吹いてるみたい。

とっても安心するよ。




「はは。上手い事言うね。」
「そう?ベタじゃない?」

「てゆーか僕の方こそベタだよね。缶コーヒー2つともあげちゃうとか。」
「そうねー…。でもいいんじゃないの?それくらいが。」

「クサい?」
「むしろクサい方が好き。」

「そっか。」










夜風が通り抜けた。
それでも、風でさえも、私達の間を通り抜ける事はできない。
しっかり、くっついてる。

離れる事なんてできないんだ。



空を見上げると、満天の星が私達を見下ろしている。
ここに住んでいてよかった。
冬は空気が澄んでいて、星がよく見える。
星がよく見えるこの場所で、夏乃と二人。
寄り添って、笑いあって。



多分私達はこれからもずっとこんな風に一緒に過ごすんだと思う。
結婚相手は2番目に好きな人にした方がいいなんてよく言うけど。

別に一番目だっていいじゃない。

長男だって、ビンボーだって。

マザコンだって、デブだってバカだってチビだからって。




そこに愛があればさ。





もうそこには確かな絆があると思うんだ。

別に夫婦じゃなくったって。

一生切れない、温かい絆という名の糸は、

しっかりと私の小指と夏乃の小指に結びついていると思うよ。





運命の赤い糸





一生懸命、たぐり寄せて、絡まって、

もがいて。





そしてたどり着いたのかもしれないね。

どこがスタートで、どこがゴールなのか…

それさえもわからないけど、

たどり着いたのは、ゴールではなく、スタートに近い地点。

これからかもしれない。

道のりは思ったより短くて、もう終わるかもしれない。









それでも、今を生きる私達には

そんな絆があるからこそ、





愛し合う人とずっと一緒にいたいって思えるんだと思う。



今では夏乃といつも一緒に大好きなラジオ番組に耳を傾けている。

そして夏乃が好きな曲が流れると、

私達はその曲を、目を閉じながら聞き入る。

この番組にはいろんなエピソードが詰まってるよね。

つらかった事の方が多かったかもしれないけど。

それでも大好きなんだ。








そして、今日も深いDJの声が聞こえる。
































それでは聞いて頂きましょう
































ラジオネーム、夏の夜さんリクエストで











































『together』

 

 

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