雨降り屋

いつもと同じ午後だった。
私は柴犬のナナを散歩に連れていった。
ナナの散歩は私の毎日の習慣になっている。
いつものように、いつもの道を、いつもの時間に出掛ける。

それは、ナナが発見した。
今となっては、それが偶然だったのか、
運命だったのかはわからない。
ただ、何らかの関係はあったはずだと私は確信している。
その日は雨が降っていた。

しつこいようだが、いつもの道を歩いていた。
雨がざーざー降りしきる中、
私はいつもより早く散歩をすませようと、
早歩きをしていた。
そのためか、靴下が真っ黒になった。
ちょっと不機嫌になっていると、
突然ナナが吠えだした。
「ワンワンワン!!!」
いつもは吠えないナナが、狂ったように吠えまくっている。
「ちょっとナナ!どうしたの?」
「ワンワンワンワン!!!!」
「あぁ〜!ちょっと引っ張らないでよっ!」
ナナは今までにないものすごい力で私を引っ張る。
私はもうその力に対抗することが出来ず、
ただただ引っ張られていくばかりだった。

ナナが急に止まった。
今までものすごい速さで走っていたから。
私はナナのしっぽを踏みつけてしまった。
「キャン!」
「あ、ごめんっ」

ふと前を見ると、
その目の前に、小さな家が建っていた。
よくみると家ではなく、それは店だった。
他の店とは違って、古ぼけていて、汚くて、怪しかった。
試しに窓をのぞいてみると、
店の中には、テーブルやイスがずらりと並んでいた。
喫茶店のようだった。

「いらっしゃいませ。」
不意にうしろから声がした。
しわがれた、年寄りの声だった。
「こ、こんにちわっ…」
びっくりして声がひっくり返ってしまった。
「今開店するところですよ。どうぞ。」
「あ、えーっと…じゃぁちょっとだけ。」
どうせ予定もないし。
雨がやむまでと思って入ることにした。
私はナナをそこら辺にある柱にくくりつけようとした。
「あ、わんちゃんも一緒で結構ですよ。」
「あ、そうなんですか。」
「どうぞどうぞ。」

店の中はがらんとしていた。
そしてむわーんとしていてむさ苦しかった。

「さて。なにになさいますか?」
「えっとー。コーヒーを一つ。」
「コーヒー?そんなものございませんよ。」
「え?………じゃぁ、紅茶で。」
「紅茶もございませんよ。」
「……………じゃぁ何があるんですか?」
「もしかして、初めての方ですか?」
「え、えぇ。まぁ。」
「そうでしたか、失礼しました。」

私は何がなんだかわからず、
ただただおばあさんを見つめていた。

「こちらへどうぞ。」
「は、はぁ。」

私はナナをつれておばあさんについていく。
もしかして喫茶店ではなかったのかなとおもっていると、
おばあさんが店の奥のドアを開けた。
ドアの向こう側は真っ暗でなにも見えなかった。
「あの。ここ、何屋さんですか?」
そう聞いても答えはなかった。
おばあさんがいなかったのである。
「あれ?」
「ようこそ、雨降り屋へ。」
おばあさんが暗闇の中から現れた。
おばあさんのいるところだけライトアップされている。
「 あ、雨降り屋?」
「 はい。雨のふる日だけに現れる、雨降り屋でございます。」
「………?」
私はワケがわからなくなった。
雨がふる日だけ?
晴れの日は閉まっているということだろうか?
自分の中でそう勝手に解決させた。
「ココ、雨降り屋ではギャンブルを中心とする店でございます。」
「ギャンブル?」
「はい。賭け事でございます。」
「あのぅ。私、ギャンブルはちょっと……」
「最後まで御聞きくださいませ。」
「あ、すみません。」
「ご心配なく。お金をかけるのではございません。」
「え?じゃあなにを…?」
「それは…」
「?」
「『命』でございます。」
「命?」
「はい。命を賭けるのでございます。」
「あの、言ってることがよくわからないのですけど…」
「ご質問は説明のあとによろしく御願いいたします。」
「あ、はい。」
「雨降り屋では、お金ではなく、『命』をかけていただきます。」
おばあさんが話しを続ける。
「見事、賭け事に勝ったなら、『命』をさしあげます。」
「もし、負けたのなら…その者の『命』はこの私のものでございます。」
「以上で説明を終わりにいたします。」
「あの、質問いいですか?」
「はい。どうぞ。」
「私、ギャンブルはちょっとダメなんです。かえらせてください。」
ちょっとこのおばあさん頭がおかしいんだと思って、
私は帰ることを決めたのだ。
「いいえ。それはできません。」
「?」
「この店に入った時点で、契約は成立しているのです。」
「え?!」
「では、何をお賭けになりますか?」
「……。すみません、もし、もし負けたらその賭けたものは…」
「はい。死んでしまいます。
死ぬというより、私がその者の命をもらうということですから、
私と一体化するといってもいいのかもしれません。
その者の命を、私のものにするのです。」
「!」
「私、やっぱり帰ります!」
私は自分の来た道を戻ろうとした。
しかし…
「ワンワン!」
ナナが動かない。
「ちょっと!ナナ!帰るわよ!」
全く動かない。
「ナナ!!」
「……このわんちゃんの方があなたより聞き分けがいいようですわね。」
おばあさんはナナを抱えた。
「ナナ!」
「このわんちゃんは私が預かっておきましょう。」
「なにするんですか!ナナを返して!」
「いいえ。あなたが賭けに勝ったら返して差し上げます。」
「そんな賭けしません!」
「それならこのわんちゃんは命を落とすことになりますよ。」
「!」
「このわんちゃんが自ら自分の命を賭けたのです。」
「そんなわけない!」
「とにかく、今から賭けをはじめます。さぁ、こちらのイスにおかけください。」
「………」
私はイスに座った。
「こちらの契約書にサインを。」
「…………」
私は黙ってサインした。
半ば焼けクソだった。
「さて。さっき言い忘れていました…」
「…………」
「賭け事に勝った場合、『命』をさし上げると言いました。」
「はい。」
「それは、『命が二つある』ということでございます。」
「………」
「つまり、一度死んでも生き返れるということです。」
「………」
「しかしそれには一つ欠点がありまして。」
「なんですか?」
「雨のふっている日は生き返れません。」
「…………」
「雨降り屋は雨の日に弱いのです。
もしあなたが勝って、わんちゃんが助かったとしたら、
雨の日には死なせないようにしてください。」
「…………」
「よろしいですね?では、はじめましょう。」
「……………はい。……」



雨降り屋
前編 完



あとがき

前編、ココで終了です。
書きながらシナリオを考えるという超無計画な作品でした;
これは学校で国語の時間にパソコンで書いた作品です。
選択教科で「小説」選んだもんですから;
まぁとにかくここまで呼んでくれてありがとうございました!
感想など、おまちしてますね!
後編はまたあとで書きます。
それではv



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