不思議家族の不思議なお出迎え









秋田実はアイボリー色の家の前で、腕を組んで三人を待っていた。
足を大きく開いて、一家の大黒柱であるかのように仁王立ちだ。
沈んでいく夕日に向かって、ギンギンと目を光らせ、太陽もどこか決まりが悪そうだ。


秋田実は意気込んでいた。

『私があの子の保護者がわり……責任者。ここはしっかりどっかりかまえておかなきゃ』

そういった感じで、さっきからずっとこんな調子である。



「実ー!連れてきたぞ〜」


と、後ろから声がしたので振り返ってみる。
まさか後ろの細い道から来るとは思わなかったからか、がくっと肩を下げてしまう。
そして体勢を立て直し、さっきまでの姿勢を急いで作り直した。




「実。改めて、小林春ちゃん」


実はギロっと春を見つめる。
春はその目つきにひるみもせずに、ぺこりとお辞儀。



「初めまして。お世話になります、小林です。春って呼んでください」
「ん。初めまして。秋田実。専業主婦。よろしく」

「歳は30」


竜樹はぼそっと春に耳打ちする。
その瞬間、竜樹の脇腹に実の肘がヒット。
むせる竜樹。



「30ですか?もっと若いかと思った!」




すかさず春は純粋な汚れのない目で実を褒め讃えた。
30女にはこれが一番よく聞くことを、春は知っていた。



「えッ?そ、そう?よく言われるわぁ……」
「うんうん、すごい若い!びっくりしちゃいました」



竜樹が不信の目で実を見ていると、ドタドタ、ガラガラという音が聞こえてきた。
夏彦がようやく追いついたらしい。



「夏彦。おせーよ」
「お、おせーよって!これでも僕めちゃくちゃ頑張ったんですけど!」

「ありがとう、水無月さん。トランク重かったでしょ?」
「あ、いいえ。これしきのことは……」



夏彦はそういうと地面をもじもじっと見た。
実はその様子をみて、眉毛をぐいっとひきあげた。



「夏彦、同居人には手を出すな」
「な、なに言ってんですか!そんなことあるわけ……」

「えっ?!同居人ですか?!」


春は『同居人』という言葉に驚いて三人を見つめる。


「だって今日一晩って言ったって、まだアテがないんでしょ?住むところが見つかるまでウチにいるって聞いてるけど?」
「で、でも!そんなご迷惑じゃ……」

「まぁまぁ、春ちゃんも疲れただろ?立ち話もなんだしはいってはいって」



竜樹は春の背中を押して家の中へと促す。
春はつられて門の中へ。
すると足下から声が聞こえてくる。


「わん、わんわん!」
「うわッ」

足下を見ると、黒い柴犬がこちらを見つめている。
前足を春の膝の辺りに置いて、一生懸命自分をアピールしている。


「あぁ〜犬、嫌い?そんな奇声発して。あはは〜」
「い、いえっ!全然……かわいい!」

「あれ、犬好き?よかったわね、夏彦」
「そうなんですか!よかったです」





夏彦はにこっとわらって、しゃがんで愛おしそうに子犬を撫でた。
春はその様子をみて、きっとこの犬は夏彦が拾ってきたのだ……と、勝手に予測していた。



「名前はなんて言うんですか?」
「黒豆」

「くろまめ?」
「うん、黒豆。」

「あ、黒豆みたいだからですか?」
「ううん。黒い豆柴だから。略して黒豆」




「まぁ、俺はマリコって呼んでるけどな」
「え?マリコ?」

「前の女の名前よ。女変える度にこの子の名前も変わるの」
「は、はぁ……」



「ちなみに、私はクロって呼んでるけどね。黒いからクロ」
「あははっ……そんなに名前があるなんて!混乱しちゃうんじゃないですか?」


「大丈夫よ。クロは自分の名前を覚えるのが得意だから」





そして私達は、シッポをおもいっきり振るクロを残して、家の中へ入る。
クロはその姿を最後まで見送ると、あきらめたように小屋の中へ入っていった。







2006,06,17.



  
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