第5話




土曜日




「じゃぁ、行ってくるから。」
「気をつけてね。」
「うん。」
「すぐ帰ってきてよ。」
「うん。」
「八つ橋忘れないでね。」
「忘れないよ。」

「私の事も、忘れないでね。」

「忘れない。」

「………」








そういって夏乃は、
私のおでこに小さいキスをした。

「…いってらっしゃい。」
「いってきます。」









夏乃が行ってから、
1時間がたった。
夏乃は今、電車に乗っている頃だろうか。
昼ご飯は夏乃の大好きな、
大きなオムライスを作って食べた。

鼻歌を歌ってみる。
現在進行形でメロディーを考える。
歌いながらご飯を食べるなんて、
ちょっと行儀悪いけど。
オムライスなんてそんなに豪華なものじゃないし。
夏乃がいたら怒られるかもしれないけど、
私は歌を歌いながらオムライスを食べた。



気晴らしに、
ラジオをつける。
夏乃の好きなラジオ番組がやっていた。

静かに聴き入る。





『〜さんリクエストで、『together』。』

びくっとした。
夏乃の好きなラジオ番組で、
夏乃の好きな曲が流れてる!
夏乃に教えなきゃ…。

私は急いで携帯電話を手に取る。




「プルルル…プルルル…」




「カチャ…喜夜?」

「もしもし?夏乃?」
「うん。…どうしたの。」
「夏乃の好きなラジオやってるよ!『together』流れてる!」
「あ〜……ごめん。今すっごい忙しいんだ。…後でまた折り返しするから…。」


夏乃は私の話しを聞いていなかった。
ちょっと恥ずかしくなった。


「そ、そっか。…たいした用じゃないの。…ごめんね。忙しいのに。」
「…うん。じゃぁまたあとで。…プツッ…ツーツーツー……」











電話の切れる音だけが、
私の耳に、強くこだましていた。






「夏乃…」







夫の名前を言葉にしてみる。

美しい響きだった。

夏乃と一緒にいれば、
一緒にラジオだって聴けたのに。

夏乃と一緒にいれば、
一緒に音楽を聴けたのに。

なんで一緒にいられないの…?


なんで、こんなに苦しまなきゃいけないの…?
















 

 

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