第6話




「…いってらっしゃい。」

いつもより寂しそうな顔を一瞬見せて、
喜夜は僕を見送りにきた。

「行ってきます。」





新幹線の中。
僕は喜夜の事を考えていた。
やっぱり喜夜は寂しがっていた。
仕事が忙しくなってからだ。

これでも僕は、
一生懸命喜夜と一緒にいられるようにした。

しかし喜夜は物足りなかったらしい。
「いってらっしゃい」の寂しい笑顔は、
僕の頭の奥底で、
確実に残っていた。











京都につく。
そろそろ昼食の時間だった。

到着して早々会議が始まる。
昼食を食べる暇もなかった。



12:30。

会議が始まる。
この会議は、僕の会社の運命を左右する、
本当に大事な会議だった。
会議には僕の社長就任を反対した幹部達も顔を出す。
この会議を成功させれば、幹部達に認めてもらえる。
失敗すれば、間違いなく、
社長をおろされる。

会議は僕の会社とその幹部達のお得意さんの社との合併についてだった。
僕がここで踏ん張れば、
幹部達の思い通りには行かなくなり、
もう抵抗はしてこないだろう。

でも、もし失敗すれば、
僕の会社は合併する事になり、
僕は社長ではなくなる。

父さんとの約束を、破ってしまう事になる…。











会議が始まった。

順調だった。
幸い、幹部達に発言は少なかった。
まだミスはないようだった…。

しかし…


「プルルル…プルルル…」


僕の携帯の着信音。
会議室中に広がった。



「…失礼します。」


電源をOFFにするのを忘れていた。

幹部達は明らかになにかたくらんでいるように、
ニヤニヤしている。

会議室を出る。

かけてきたのは


喜夜だった。

「…喜夜?」
「もしもし?夏乃?」
「うん。…どうしたの。」
「夏乃の好きなラジオやってるよ!『together』流れてる!」
「あ〜……ごめん。今すっごい忙しいんだ。…後でまた折り返しするから…。」

僕の頭はそれどころじゃなかった。
パニックになっていた。

このままじゃ、
失敗してしまう!

「そ、そっか。…たいした用じゃないの。…ごめんね。忙しいのに。」

それより早くしなくては…

「…うん。じゃぁまたあとで。…プツッ…ツーツーツー……」

僕はあわててきった。
電源も。





「すいませんでした。」
「電話…か。…そんな様子じゃぁ…ねぇ?」

幹部達が攻撃してくる。
完璧にこちらが不利になってしまった。

「常識がなってない者が社長などできるのでしょうか?」
「…ねぇ。」


会議はそのまま、
僕にとってはいやな雰囲気の、
幹部達にとってはいい雰囲気で、
終わった。























「…はぁ。」



ため息をつく。






「…父さん…ダメかもしれない…。」


















ホテルの一室で


一人、




つぶやいた。

 

 

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